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運動麻痺に対する治療戦略と実践⑤ 機能だけでなく生活と心を変える

実感、再現できること
患者さんの身体を動かせるのは、患者さん自身しかいない


前回述べたように急性期の劇的な改善が落ち着き、
神経ネットワークの再構築を行う時期に入ると機能回復には時間がかかります。


またリハビリの提供単位は、回復期退院直後から激減します。

そのため機能回復のためには、リハビリの時間だけに頼るのではなく、生活そのものがリハビリになるようなスタイルが理想になります。


そう考えると、セラピストの介入により質を上げ、病棟や在宅での生活場面に活かし量を確保することが大切だと考えます。



質を上げるとは、

患者さんの望む良い運動を目指しながら、
麻痺側の潜在能力と残存機能を活かした上で、
新たな使い方を再現できるところまで持っていくことです。


セラピストの専門性はここにあると思います。

セラピストはただ歩かせる、ただ物品操作を行うのではなく、問題となっている上手く使えない部分を、使うための促しができる唯一の存在だ と思います。


多くのセラピストは量を重視することで、異常なパターンがどんどん進むことを懸念するかもしれません。

もちろん異常なパターンは少ないorないに越したことはありません。
しかし、京都大学の大畑先生は、「脳卒中後に完全な運動回復が得られるのは15%にすぎない。

つまり、多くの場合、片麻痺患者の運動には何らかの問題が残存することが予想される」と言っています。

残存する問題について、Duncanらは
Impairment levelにおいて90%以上回復する患者は全体の4割以下であるのに対し、
Activity levelの評価であるBarthel Indexが90%以上となる患者の割合は6割程度も存在するとしています。

残存運動機能障害を残存機能により代償することでADL能力の向上は図ることができます。

しかし大畑先生は、(歩行能力についての見解ですが)それでも理学療法の目標の第一選択としては、
以下の3つの理由から、Impaiement level の改善を通して、Activity levelの向上を目指すべきであるとしています。
1.慢性期であっても適切なトレーニングにより神経学的可塑性が得られる

2.代償的な運動が長期的な関節可動域制限や痛みのような問題を引き起こす可能性がある

3.代償的な運動が、その後の麻痺側の運動機能の改善を制限 する可能性がある


さらに大畑先生らは、
「回復期における歩行速度と筋活動パターンの関係について調べたところ、筋活動が健常者と類似したパターンであるほど歩行速度が速かったこと、筋活動の類似性が一定以上改善したグループにおける歩行速度の改善が顕 著であったことが示された。

このことは健常者に類似した歩行筋活動パターンになること、つまり『歩行筋活動の正常化』 が歩行速度を改善する基盤を形成している可能性を示唆している」と言っています。


やはり健常人の動きをしっかりと理解しておくこと、がセラピストとしての基盤となるということだと思います。

基本的な知識があるからこそ、観察により動きの問題となっている箇所を見つけ、触れることで筋や関節に何が起こっているのかを推察・確認することができます。

患者さんは生活場面では無意識に非麻痺側であったり、使いやすい方法で行ってしまいがちです。

そのためリハビリの課題の設定は慎重に行う必要があります。

セラピストは患者さん自身が直面している問題を、1つの課題の前後で改善に導くことが必要です。

患者さんが実感できる方法で効果判定をすることも大切です。


見た目がいくら変化しても、患者さん自身の実感が伴わなければ、またやろうとも思わないでしょうし、それでは生活に汎化しません

そもそも実感がないということはまだ新たな運動パターンを再現するためのコツがつかめていないことが多いです。


再現できるかどうか、これが運動学習をしたかどうかの1つの指標となります。


またリハビリの課題は患者さんの積極的で能動的な参加は必須です。

患者さん自身でしか、患者さんの身体は動かせません。


OT協会の冊子、Opera(2011年3月号)で脳に関する多数の著書を書いている池谷先生が記憶について興味深いコメントをしています。


記憶は出力依存、入力依存よりも出力依存の方が定着率は3倍になるとのことです。

退院後の生活を考えても、患者さん自身が積極的・能動的に機能回復を進める方法を身につけることが大切です。


ただし積極的で能動的といっても、ただ非麻痺側優位に歩くだけでは廃用の予防・改善にはつながったとしても、麻痺側の機能改善には直結しないかもしれません。


生活の中でより効果的・効率的に麻痺側の能力を発揮できるようにすることが、機能回復を目指す上でのセラピストの役割だと言えます。

生活につなげるためには患者さん自身のを変える必要があります。

そのためには動きや生活が変わっているという実感をいつも感じられる必要があると思います。



長々とすいません、最後までお読み頂きありがとうございます。


次回は、実際に私たちセラピストは片麻痺患者さんに何ができるのか、これまでのまとめをしながら考えていきます。



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